時は戻りパリでは・・・
「いきなさい『ウンディーネ』遠慮は無用よ水の恐ろしさを存分に刻み付けてあげなさい」
『水師』の宣告により水の恐怖が始まろうとしていた。
六十三『雨・雹・氷柱』
『水師』の宣告を受けはしたが、一堂それが何を意味しているのかはまるで見当がつかなかった。
『水師』も彼女の幻獣王たる『ウンディーネ』も特別な動作をする訳でもなくただその場で棒立ちしているだけ。
少なくとも国連軍はそう見て取れた。
魔術師達は『水師』や幻獣王が尋常でない魔力を集中している事までは掴んだが、それを何に使うのか判断材料が余りにも乏しく、動くにも動けず奇妙な均衡がしばし続いた。
この時、もしも誰か一人でも上空を見上げれば・・・少なくとも魔術で視力強化していれば気付いただろう。
上空を雨雲がいつの間にか覆いつくしていた事に・・・
最初にそれに気付いたのは凛を含め上空で展開中の部隊だった。
水滴が一滴ガラスに、機体に、凛の手の甲に落ちる。
「雨?」
誰かが、あるいは一斉にそう呟いた。
だが、直ぐにはっとする。
パリは北緯四十八度以上、日本の北海道よりも北に位置する。
おまけに今は十二月、季節は冬だ。
どう考えても降るのは雨ではなく雪の筈・・・なのに何故・・・
しかし、その疑惑の回答を持っている者もいた。
(凛さーーーん!!急いでその水振り払って!!)
珍しく、いや、滅多にない勢いでマジカルルビーが凛に念話で話しかけてくる
その文字通り血相をかいた勢いに思わず手を振って水滴を払う凛。
確かに大半の水は遠心力で宙に舞うが極微量な水は凛の甲に残った。
そして、次の瞬間その残った水がありえない勢いで回転をはじめ手の甲の皮膚を破り、血がにじみ出た。
「いつっ、な、何よこれ・・・と言うかこの水魔力を・・・」
ようやく気付いた。
僅かに付着しただけの水に尋常ではない魔力が込められているのを。
(間違いないですね。この魔力、あの人のものです)
「じゃあ何?あいつがこの雨を降らせたって言うの?」
(そう見るのが妥当かと。ですが厄介ですよ一滴以下の状態ですらこの威力です。本降りになったら・・・)
「わ、悪い冗談は止めてよ!」
不吉すぎる言葉に声を荒げる凛だったが悪い予感と言うものは当るもの。
そんな言葉を身をもって理解する事になった。
一滴、二滴と次々と天から降り注ぎ、本降りになった。
咄嗟に結界を張って自身の身体に水が掛かるのを防ぐが、周囲の攻撃機や戦闘ヘリはそうは行かなかった。
雨水は次々と銃弾、いや、機関砲並みの威力で降り注ぎ、次から次へと機体を貫き、乗務員を殺傷し航空機は火を噴いて墜落していく。
凛を除く航空戦力が全滅するのに三分も掛からなかった。
そしてその被害は当然だが地上にも平等に齎された。
魔術師達は結界を張って被害を最小限に食い止めようとするが、並の魔術師のそれでは防ぐ事は出来ず、結界は破壊され、文字通り蜂の巣にされて、原型など留める事のない死体となって大地に骸を晒す。
並とは言え魔術師ですらこの有様、魔術の心得も無い一般兵には耐えられるものではなく、どうにか『クロンの大隊』をはじめとした魔術師部隊が造り上げた結界内に逃げ込もうとするが、その間も凶器と化した雨は情け容赦なく降り注ぎ、犠牲者の数を増やしていく。
結果、総戦力の一割がこの雨で死傷する大損害を受けた。
そんな中避難した部隊はいち早く体制を立て直し、この隙に前進を始めた『六王権』軍に対して反撃を開始する。
『六王権』軍は被害を受けていないのかと思われたがそれは違う。
この雨は敵味方関係なく降り注ぎ、当然だが、『六王権』軍もこの雨の被害を受けていた。
しかし、痛覚も無ければそもそも既に死んでいる死者である。
全身に雨を受け、脳天を撃ち抜かれても脚が貫かれても一歩また一歩と歩みを止める事はなかったのだから。
そんな中一歩も下がる事無く奮戦を続けるものもいた。
バルトメロイ、『カレイド・エンジェルズ』、そしてエミヤ・アルトリア・ヘラクレスである。
セラとリーズリットはイリヤの厳命で結界内に避難し『六王権』軍の迎撃に余念が無い。
敢えて前線に残った九名は結界を張り自身の身体のガードを固め、『六王権』軍を薙ぎ払い、『水師』・『地師』を迎え撃っていた。
「たあああああ!」
「うおおお!」
「ぬおりゃあああ!」
アルトリア、ヘラクレスの剛剣を『タイタン』の力を受けて過剰に肥大化した両腕で受け止め弾き飛ばしあまつさえ二人まとめて吹き飛ばす『地師』。
「くっ!化け物ですか!あれは!私達の剣を素手の拳で受け止めて弾き飛ばすなんて」
「しかも力のみならずスピードまでも私を上回っているか・・・」
見れば『地師』の両足も腕には及ばぬまでも二倍近く肥大化している。
『地師』の速度を上げた要因はこれであった。
それでもアルトリア、ヘラクレスと『地師』の戦いはややではあるが優勢に推移していたし、『六王権』軍の前進もエミヤを中心として、また後方からの支援も受けて次々と撃破していく。
しかし、いくら敵を討ち取っても肝心の『水師』・『地師』には未だ指一本とて触れる事はできず、殺戮の雨による被害は未だ増加の傾向にある。
その上、事態は更に悪化していく。
「ちょっと?何か雨足更に強くなっているような気がするんだけど」
「気ではありませんわよトオサカ!本当に雨足が強くなっているのですわ」
確かに、雨が地面を叩く音は時間が立つ毎にその強さをまし、その威力は機関砲と言うよりも迫撃砲に近い威力にまで跳ね上がった。
現に所によっては結界を突破し、偶然真下にいた兵士を殺傷させる被害まで現れ始め、結界に守られた事で落ち着きを取り戻しつつあった彼らは再び浮き足立とうとしている。
「冗談じゃないわよ!こんな雨の中じゃあ私達だって無事じゃすまないわよ」
イリヤの言葉は正しい。
現に自分達の身を守る結界ですら雨を受ける度に嫌な音を立てて軋んでいるのだ。
これ以上この場に留まる、もしくは雨足が更に強まれば無事でいられる保障等何処にもない。
ならば残された手は一旦後退し戦線を立て直すか、速攻でこの雨を降らせる『水師』を討ち取るかしかない。
定石としては後退して戦線立て直しがベストだが、後退した所で現状が改善されるという確約は何処にもない。
むしろ今、この段階で後退すれば浮き足立っている味方の混乱は確実。
この雨の中でも確実に前進を続ける『六王権』軍に呑み込まれる恐れすら出てくる。
そうなると短期決戦に持ち込むしか術は無い。
そう判断を下すやルヴィア、カレンが同時に『六王権』軍を薙ぎ払うや一目散に『水師』目指して突き進む。
その行く手を阻もうと次々と死者が迫るが凛の魔力砲とエミヤの剣が道を切り開く。
「もう貴女を守るものはおりませんわよ覚悟!!」
「行きます、せめて祈りなさい。それが貴女に許された贅沢なのですから」
ルヴィアの蹴りとカレンの鉄球が同時に迫る。
だが、それも見ても『水師』の表情に焦りはない。
いや焦りどころか
「あらあら、怖い怖い」
その口元に笑みを浮かべ余裕そのものといった表情を浮かべていた。
その笑みに不吉な予感を覚えたのはエミヤだった。
得体の知れない予感に背中を押されるように二人の首根っこを捕まえると躊躇う事無く横へと跳躍した。
「??な、何を!」
ルヴィアが文句を言おうとした瞬間先程まで二人がいた空間に水が吹き上がる。
吹き上がると言っても一ミリの幅すらも無い細い、糸のような水だ。
そして水は『マモン』と同じくらいの速さで直進をはじめたまたまその直線状にいた死者を、その先に放棄されていたジープをもいとも容易く両断してしまった。
「「・・・」」
思わぬ光景にカレンですら言葉を失う。
もしもエミヤが自分達を抱えて軌道から避けなければあの死者やジープと同じ運命を辿っていた。
幸いバルトメロイの手で水は四散したがあのまま放置すれば後方の味方にも牙をむいただろう。
「ウォーターカッターか」
忌々しく呟くエミヤ。
考えてみれば雨を弾丸並みの威力で降らせる相手だ。
超高速の水流を作り出すことも可能と考えるのが妥当と言うものだ。
「むざむざ接近戦に持ち込むのも危険か」
「あらあら、その言い方ですと距離を取れば楽勝という事ですか?そう上手く行きますかしら?」
「なに?」
「あら、随分と寒くなりましたわね。それではこの時期にもっとふさわしいものを降らせましょう」
そういうや雨は止み、暫くすると、もっととんでもない物が降ってきた。
「??あれって・・・雹?」
見れば確かにそれはそれなりの大きさの氷の粒・・・雹だった。
(そうみたいですよ〜まいりましたね〜本当に爆撃じみてきましたね〜)
「ンな事抜かしてる場合か!このバカ杖!あんなの雨よりも洒落にならないわよ!」
(それもそうですね〜じゃあ凛さん、カレイドアローで片っ端から撃ち落しちゃって下さいな〜)
「あ〜っもうそれしかないって訳?」
(もちのろんでございます〜)
「っ〜こ、このバカ杖・・・いいわよ、判ったわよ、やってやるわよ!」
そんな漫才じみた掛け合いの後、凛はカレイドアローを上方に構え、いつも発射する魔力弾を更に小さくした奴を乱射する。
雹を砕くにはこれくらいの威力で十分と踏んだ為だ。
むしろこの場合には威力よりも数を重視しなければならない事も事実であったが。
ともかくも次々と打ち出される魔力弾は雹を複数粉々に打ち砕いていく。
しかし、凛一人で全ての雹を迎撃する等無理な話。
撃ちもらした雹は次々と落下、
何の魔力を帯びていない雹でも車のフロントガラスにひびを入れ、当たり所が悪ければ命をも奪う。
それが『水師』の魔力を帯びるとどうなるか?
それは直ぐにわかった。
突如後方から悲鳴が上がる。
ある雹が結界を容易く突き破り地面に激突するや細かく散らばり散弾となって襲い掛かってきた。
もしくは雹にヘルメット越しに激突した兵士の頭部が水風船のように破裂、または肉体が四散する。
もはやその威力は砲撃に近い。
しかし、これでも被害は軽いほう、凛が必死に雹を撃ち落し、事態を察したバルトメロイが地上で雹を砕いているからこそ致命的な被害を避けている、しかし、この二人がいなくなればいくらアルトリア達を要していたとしても、『全滅』と言う最悪の展開すら現実味を帯びてくる。
ならば一刻も早くこの現状を作り出している元凶の『水師』を倒すのが最優先事項だが、それも上手くはいかない。
遠距離で攻撃を仕掛けようにも降り続ける雹の対処に精一杯になる。
それにやはり遠距離攻撃では決め手に欠ける。
かと言って接近戦を仕掛けようにも待ち構えるのはウォーターカッターだ。
そうやすやすとは近寄れない。
更にアルトリア、ヘラクレスは『水師』を倒す為にはまず目の前の『地師』を倒さねばならない。
しかし、『地師』はある意味『水師』よりも厄介な相手、何しろ
「どういう相手ですか!」
何度斬っても、
「よもやどれだけ潰しても直ぐに再生するとは」
押し潰しても、すぐさま再生するのだから。
「俺は死ににくい事だけが取り得なのでな。言っただろう、並みの死徒の再生能力と同じと侮れば後悔すると」
死ににくいのではなく、本当に死なないのではないのか?
そんな疑念すら湧いてくるほど『地師』の再生能力は異常だ。
何しろ『水師』の砲撃のような雹、弾丸の雨を何の防御体勢をとる事無く全て受け、そのたびに傷を負い、それにも拘らず全て再生。
尚且つアルトリア、ヘラクレスの二大英霊を相手に対等に渡り合っているのだから。
「このままでは・・・ジリ貧もいい所」
アルトリアの言葉に偽りは無い。
身を守る結界にも限界がある、いずれは結界も破壊される。
そうなればあの雹の猛威にじかに晒される、英霊であっても無事では済まない。
戦況は著しく危うい均衡の元で成り立っていた。
雹を必死に撃墜する凛とバルトメロイ、『地師』を食い止めるアルトリア・ヘラクレス、『水師』を迎撃するエミヤとルヴィア・カレン、そして『六王権』軍の進軍を撃退し続ける桜、イリヤと後方のパリ防衛部隊。
このどれかが崩れれば人類側は砂上の楼閣よりもろく崩壊してしまうだろう。
それを察した『地師』はその一突きを行う事にした。
両腕に更に力を込めるとアルトリア・ヘラクレスを薙ぎ飛ばし、その脚力で跳躍、バルトメロイを視野に納める。
それに気付いたエミヤが援護に回ろうとするが
「あらあら、よろしいのですか、上の方は?」
『水師』のどこまでも人を嘲った声に上空を見ると凛が必死に自分目掛けて間断なく降り注ぐ氷柱を迎撃していた。
ぱっと見ただけでも凛と同じくらいの大きさの氷柱だ。
1秒以下の時間だけ躊躇したがエミヤは凛の元へと目指して大きく跳躍氷柱を次々と打ち砕いていく。
その間に『地師』はバルトメロイ目掛けてその拳を振りかざしバルトメロイを叩き潰す算段を立てる。
「甘いですよ」
冷徹にそう言い放ち風の壁を間に作り上げる。
触れるだけで切り裂かれる風の刃の壁、普通であれば十分に有効だったが相手が悪い。
『地師』は切り裂かれる事等関心が無いのか切り裂かれても躊躇う事無く、痛覚も消えているのか表情も変える事無く、前へ前へとただひたすら突き進む。
そして全身傷だらけで風の壁を突破、改めてバルトメロイにその拳を振り下ろす。
いや、正確には振り下ろそうとしたが正しい。
体勢を立て直したアルトリアが背後から急襲を仕掛けようと迫り『地師』は躊躇う事無く迎撃の矛先をアルトリアに向けていた。
アルトリアの剣と『地師』の拳が同時にぶつかり合いその結果小柄なアルトリアが吹っ飛ばされ、そこへ止めを刺すべく『地師』は跳躍、自分の体重も加えた渾身の一撃で押し潰さんと迫り来る。
回避しようにも吹き飛ばされている途中である為、体勢を整えるのが精一杯。
(シロウ!)
この一撃は避けきれないと悟りせめて防御体勢を取るがそれは無駄に終わる。
「うおおおおお!」
横から現れた人影が自分と『地師』の間に割って入り身をもって『地師』の攻撃を防いだ為だ。
その押し問答は数秒ほど続いたが、その間に体勢を整えたアルトリアが着地と同時にそこに加勢、不利を悟った『地師』が自分から後退し体勢を立て直す。
アルトリアはそこで改めて自分を救ってくれた人物を横目で確認する。
それを確認した瞬間、自分の眼を疑った。
そこにいたのは生前から、そしてつい数ヶ月前目にした鎧、流れるような黒髪、そして静かな湖のような穏やかな容貌。そう、紛れも無いそれはランスロットだった。
「ラ、ランスロット・・・?な、なぜ・・・」
「王よまだ敵は健在です」
問いかけようとしたアルトリアだったが、ランスロットの声に意識を改めて『地師』に向ける。
「新手か・・・」
余裕ある表情を消し隙を無くしながら『地師』の肉体は瞬く間に治癒されていく。
「くっ・・・一体どういった構造なのですか・・・」
アルトリアは思わず愚痴るがそれにも表情を変える事無くランスロットは断言する。
「敵が何者であれ王に仇名すのならば私は斬るだけ。度重なる不忠を少しでも払拭する為にも」
アルトリアはこの上も無い頼もしさを感じていた。
キャメロット最強の誉れ高き騎士が今自分の味方なのだ。
ヘラクレスと並んでこれほど頼りになる騎士など片手で数えるほどしかいない。
「ランスロットあの怪物を討ちます。援護を」
「無論、今一度王の剣となり王の敵を討ち果たします」
その言葉と共に二人は同時に剣を構え目の前の敵と相対する。
同時刻上空でも異変が起こっていた。
相変わらず次々と落下する氷柱を迎撃する凛とエミヤの頭上で白い流星が飛来氷柱も雹もまとめて粉砕する。
「凛、それに・・・・アーチャー??何故ここに?」
凛の救援に現れたメドゥーサはエミヤの姿を確認して驚きを声に現す。
「ライダー説明は後回しだ。すまないが凛の援護とこの雹と氷柱の掃除を頼む」
そう言って凛をメドゥーサに託して再び『水師』との戦いに臨むべくルヴィア、カレン達の元へと向かう。
その『水師』には
「失せろ下郎!」
突然剣や槍などの武器が雨あられと降り注ぐ。
「あらあら、新手ですか」
そういうや『水師』は雹を武器目掛けて降らし軌道をそらしたり打ち砕いたりして全てを迎撃する。
「何処にも余裕は無いかとも思われましたが何処から来たのでしょうか」
そういう『水師』の視線の先には『ヴィマーナ』に君臨し傲慢に見下すギルガメッシュ。
だが、そんな傲慢な顔におもむろに好色な色が加わった。
「ほう、騎士王には及ばぬにしろ下郎にしておくには惜しいほどの美貌だな、女、王である我の勅令だ。我の物となれ」
ギルガメッシュの傲慢極まりない言葉に返ってきたのは
「あらあら、猿から進化したばかりのお子様がほざいているようね。まあ答えるのも馬鹿馬鹿しいですが一応お答えいたします。そのお話謹んでお断りいたします。私は既に夫に心身全てを捧げた身、器も人となりも小さい方に侍る等苦痛であり屈辱、想像するのもおぞましい限りの話ですので」
口調は丁寧だったがその内容は罵倒となんら変わりは無い。
むしろ丁重な分、そして『水師』が際立った美貌の持ち主である分面憎さがました。
そして案の定ギルガメッシュの自尊心をしたたかに傷つけた。
「ほう、言ったな・・・女。だがなこれは王である我の決定だ。拒否等許さぬ。そのような事も判らぬとは・・・しつけが必要だな」
そういうや一本の剣が高速で飛来する。
狙うのは『水師』の脚。
しかし、それも再び姿を現したウォーターカッターで両断される。
「言う事を聞かなければ暴力で従わせるですか・・・とことん腐り果てているわね。貴方にこそしつけとお仕置きが必要なようね。人の心を無碍にするなんて・・・その捻じ曲がった根性少し直して来なさい」
そういうや雹が集中してギルガメッシュ目掛けて降り注ぐ。
「ふん愚か者が!このような小細工我に通用すると思ったか!」
そう言うや『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を自分の真上目掛けて発動、雹を残らず粉々に打ち砕く。
「我に歯向かうか!先程の身の程知らずの下郎と同様無残な最期を遂げたいらしいな」
その言葉着た瞬間『水師』の口調に感情が加わった。
「・・・下郎?」
既に『水師』は・・・いや、『六師』全員知っていた。
リタ・スミレが戦死を遂げた事は。
ギルガメッシュがどちらを指しているのかは判らない。
どちらでもないのかも知れない。
(実際はギルガメッシュが言った下郎はスミレであるが)
だが、相手から見れば下郎であるだろうが、下郎と呼ばれた側は信じるものの為に命を賭けて来たのだ。
それを声も高々に侮辱する事は 許し難い事だった。
「・・・坊や、かかっていらっしゃい。闘いと言うものをそして誰が下郎なのかしっかりと教えてあげるわ。私は『六師』の中では戦いの心得は一番低いけれど闘いの何たるかもわからない坊やよりはましでしょうから」
明らかに見下した挑発の言葉に当然だが激昂するギルガメッシュ。
「ほざいたな女!まあ良い・・・我は慈悲深い。四肢を切り落とした後特別に飼ってやろう。その顔さえ無事であれば文句は無いからな」
そう言って再び剣を飛ばす。
その数は四本、数と狙いからして『水師』の両腕、両脚を切断する腹積りなのだろう。
だが、直ぐにその目論見は潰える。
突然剣の周囲三百六十度に水滴が姿を現したかと思えば四方から襲撃、あっという間に粉々に打ち砕いたのだから。
「!!」
「あらあらどうしたの坊や?この程度の事で驚くなんて」
やや驚愕した表情を見せるギルガメッシュに対し嘲りの笑みを口元に浮かべながら更なる挑発をする。
「ふ、ふん、少しはやるみたいだな女、だがその程度で勝ったと思わぬ事だな」
そう言って今度は無数の武器を発動させる。
「またそれなの?芸がないわね本当に。まあ良いわ、片手間でもお相手出来ますのでどうぞ掛かって来て下さい」
とことん小馬鹿にした態度を取る『水師』に当然だが堪忍袋の尾が直ぐに切れ、
「・・・・・・もはや貴様はいらん!王である我を嘲った罰だ!二目と見れぬ無残な死体となれ!」
その宣告と共に撃ち出される剣の弾丸。
それを見ても『水師』の表情に余裕は消える事は無い。
パリでの戦い、それは『イギリス海峡海戦』から加わった援軍の到着で更に激化の一途を辿ろうとしていた。